第11章/企業法務の関連

11.1 商法改正の主な動き

いろいろ動きのあった過去のある期間をみてみると,一例として下記のような変化が あったが,これらは外部環境や時代の要請に応じて変わる可能性がある.したがって, 絶えず官報や公的機関などの情報をチェックしておくことが必要である.

などである.

なお 50 年振りの商法抜本改正が 2005年の通常国会を通り成立したことは 第2章 でで詳しく説明したが、本章では幾つかの補足も含めて起業の観点からも解説する。

11.2 企業・法人・会社の違い

11.2.1 企業

継続的,計画的に事業活動を行う,独立した経済活動をする団体である.

公企業(国や地方公共団体)と私企業(個人企業,法人企業)がある,

11.2.2 法人

自然人以外のもので,法律上の権利義務の主体とされているものである.すなわち 個人と同じように経済活動ができる団体である.

社団法人(営利を目的とするもの)と財団法人(一定の目的のために提供された財産 を運営するためのもの)がある.

11.2.3 会社

法律上は営利を目的とする社団法人であり,経済的には営利を追求する私企業であ る.

11.3 会社組織

11.3.1 従来の会社法体系と新会社法体系の比較

表 11.1 従来の会社法体系と新会社法体系の比較
従来の会社法体系 株式会社 有限会社 合資会社 合名会社 【新設】
最低資本金 1000万円 取締役3名 以上 監査役必置 最低資本金 300万円 取締役1名 以上 無限責任社員と有限責任社員が混在 無限責任社員のみにより構成



新しい「株式会社」 合資会社 合名会社 合同会社
株主の責任:有限責任取締役1人以上 無限責任社員と有限責任社員が混在 無限責任社員のみにより構成 内部的には組合、外部的には有限責任
取締役会の書面決議可能 決算公告義務あり 取締役・監査役の任期最大10年 社員1名での設立可 社員1名での設立可
最低資本金制度の撤廃

なお,海外企業が日本に株式会社としての現地法人を設ける場合には,進出や撤退を 迅速に行えるような形態が取られている.例えば,これまで取締役 3 名のうち 1 名は 日本居住者であることが必要なので,日本人弁護士をあてるケースが多い.監査役も日 本にいる必要はなく,日本には取締役 1 名がいるだけである.

その他,社会労働保険や法人税対応もそれぞれ日本の関連専門事務所に委託し,人 事・総務・厚生などもアウトソーシングするケースが多い.

11.3.2 会社にするメリット,デメリット

序章のプロローグ冒頭でも述べたとおり,会社と個人営業の大きな違いは,事業資金 と生活資金の明確な区別と管理である.この経理処理を適格に行うならば,会社組織に するメリットはきわめて大きい.

表 11.2 に,会社にするメリットとデメリットの比較を示す.

表 11.2 会社にするメリットとデメリット
メリット デメリット
  • 資金調達が容易になる.
  • 対外的信用が増す.
  • 有限責任であり,倒産のときのリスクが少ない.
  • 合法的節税につながる.
  • 社会労働保険に加入できる.
  • 事業の継続性が維持できる.
  • 人材の募集が容易になる.
  • 決算期を自由に選べる.
  • 開業,設立に手間がかかる.
  • 資金移動が不自由になる.個人事業では,事業資金と生活資金との融通が効く が,会社組織にすると明確に分離する必要がある.

なお,これまで最低資本金のクリア,すなわち有限会社は 300 万円,株式会社は 1000万円が障壁であったが,これは 2003年 2 月施行の中小企業挑戦支援法の最低 資本金規定の特例で 1 円でも起業できるようになった.さらに 2005年の商法改正で は撤廃の方向にある.

資本金1円企業(株式会社)の設立手順は以下の通りである.

  1. ①創業者による定款作成(印紙代 4 万円.司法書士への作成依頼は別料金).
  2. ②公証人による認証(公証役場へ 5 万円).
  3. ③創業者であることの証拠および申請書の経済産業局への提出(無料).
  4. ④確認日から 2 ヶ月以内に設立登記(法務局へ 15 万円).
  5. ⑤登記後ただちに経済産業省に会社設立の届出(無料).
費用は他に定款用紙購入代金など,雑費として 7 万円程度かかる.

11.3.3 株主総会

株主総会のうち定時株主総会は,企業の意志決定の最高機関であり,会社提案,株 主提案によるいくつの議案について決議する.議事進行役の議長は代表取締役がなる. 決算の 3 ヶ月以内に行われ,その 2 週間前までに招集手続きがなされる.株主には議 決行使書が郵送されてくる.株主総会に出席できない場合は郵送で意思表示できるが, 最近はインターネットでの議決権行使ができる進んだ企業もある.

議決権行使の意思表示がない場合には,会社提案議案を「賛」,株主提案議案を 「否」として処理される.

内容的には以下のようなものである.

  1. 会社の組織・業態に関する事項
    定款変更,減資,合併,解散などである.
  2. 構成員の選任・解任に関する事項
    取締役,監査役などの選任・解任,およびこれら役員報酬の決定などである.
  3. 株主の利益などに関する事項
    配当,その他に関する事項である.

11.3.4 株主代表訴訟

取締役が,違法行為によって会社に損害を与えた場合に,株主が取締役に損害賠償を 求める訴訟のことである.ただし 6 ヶ月前から株主になっていることが条件で,対象 取締役への責任追及訴訟を起こすことを,査役に請求することが必要である.会社(監 査役)が 60 日以内に訴訟を起こさなかった場合に,株主は代表訴訟を起こすことがで きる.これも一連の商法改正の一環として,取締役責任の軽減化措置が取られている.

11.4 各種専門家に依頼できる主な内容

会社設立の手続きを,弁護士や司法書士等の専門家に任せることもできる.依頼内容 にもよるが,大まかには依頼料 10 万円くらいから可能である. 下記に各種専門家に依頼できる内容の概要を示す.

11.4.1 弁護士

個別の相談経費は 5,000 円/ 30 分程度であり,会社の顧問として依頼する場 合でも 50,000 円/月程度が一般的である(2002年度実績の一例).

内容的には,

などである.

11.4.2 司法書士

内容的には,

などである.

11.4.3 税理士

ケースにもよるが,決算期の経理処理などを主に依頼して, 40 万円/年くらい でもやってもらえる.ただ景気低迷を背景に年々価格はさがっている. さまざまな経理サポートソフトがあって,それなりに一人でも処理は可能であるが, そちらに時間を取られたくない場合は依頼するほうが楽であろう.

内容的には,

などである.

まずは司法書士と税理士でことは進められるが,人を雇ったり事業展開を進めていく には,さらに各種専門家の力を借りる必要もでてくる.

11.4.4 社会保険労務士

内容的には,

などである.

11.4.5 弁理士

内容的には,

などである.

11.4.6 経営コンサルタント

この分野は玉石混交の感じであり,千差万別さまざまなレベルがある.内容的には,

などである.

11.5 開業後に諸官庁に届ける書類

設立登記が終わると,指定された期日までに諸官庁に対し,その時点で該当する関係 書類を届けなければならない.

11.5.1 税務署

内容的には,

などである.

11.5.2 地方公共団体

内容的には,

  • 事業開始等申告書
  • 法人設立申告書 などである.

    11.5.3 労働基準監督署

    内容的には,

    などである.

    11.5.4 社会保険事務所

    内容的には,

    などである.

    規制緩和の一環で簡略化されるものもあり,詳細は都度,役所に聞くか,各種手引 き書の類を参照することが必要である.


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