第21章/企業と地球環境問題

21.1 現状における環境問題

21.1.1 地球温暖化

  1. 問題の概要

    大気中には、二酸化炭素、メタン等の温室効果ガスが含まれており、これらの 効果により人間や動植物にとって住みよい大気環境が保たれてきた。 ところが、近年の人間活動の拡大に伴って温室効果ガスが人為的に大量に大 気中に排出されることで、地球が過度に温暖化する恐れが生じている。

    特に二酸化炭素は、化石燃料の燃焼などによって膨大な量が人為的に排出さ れ、地球温暖化への寄与度は約60%を占めている。(図21.1参照)


    図21.1 温暖化ガスの排出量(2004年)

    又、地球温暖化に関する世界的な影響として表21.1、表21.2の内容が挙げられる。

    表21.1 地球温暖化の影響の現状
    指標観測された変化
    平均気温 20世紀中に約0.6℃上昇
    平均海面水位 20世紀中に10~20cm上昇
    暑い日(熱指数) 増加した可能性が高い
    寒い日(霜が降りる日) ほぼ全ての陸域で減少
    大雨現象 北半球の中高緯度で増加
    干ばつ 一部の地域で頻度が増加
    氷河 広範に後退
    積雪面積 面積が10%減少(1960年代以降)
    資料:IPCC「第3次評価報告書」より環境省作成

    表21.2 地球温暖化の影響の予測
    対象 予測される影響
    平均気温 1990年から2100年までに1.4~5.8℃上昇
    平均海面水位 1990年から2100年までに9~88㎝上昇
    気象現象への影響 洪水、干ばつの増大、台風の強力化
    人の健康への影響 熱ストレスの増大、感染症の拡大
    生態系への影響 一部の動植物の絶滅、生態系の移動
    農業への影響 多くの地域で穀物生産量が減少。当面増加地域も。
    水資源への影響 水の需給バランスが変わり、水質へ悪影響
    市場への影響 特に一次産物中心の開発途上国で大きな経済損失
    資料:IPCC「第3次評価報告書」等より環境省作成

  2. 地球温暖化防止に向けての取り組み
    1. ① 気候変動に関する国際連合枠組条約
      表21.3 気候変動枠組条約の概要
      経緯 1992年5月に採択
      1994年3月に発効
      日本は1993年5月に締結
      究極の目的 気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない 水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ ること。
    2. ②京都議定書

      上記数値約束を達成する仕組みとして、市場原理を活用する以下の3つの手 法が制定されている。

      1. 共同実施(JI)
      2. クリーン開発メカニズム(CDM)
      3. 国際排出量取引

      21.1.2 オゾン層の破壊

      1. 問題の概要

        近年の観測結果から、CFC,HCFC,ハロン、臭化メチル等のオゾン 層破壊物質により、オゾン層が破壊されていることが明らかになっている。

        オゾン層が破壊されると、地上に到達する有害な紫外線が増加し、皮膚 ガンや白内障等の健康被害を発生させるだけでなく、植物やプランクトンの生 育の障害等を引き起こすことが懸念されている。

        オゾン層破壊物質は化学的に安定している為、大気中に放出されると破 壊されずに成層圏迄到達する。そして、太陽からの強い紫外線を浴びると、分 解され、塩素原子や臭素原子を放出し、これらの原子が触媒となってオゾンを 分解する反応を連鎖的に引き起こすことになる。

      2. オゾン層の保護対策

        オゾン層破壊物質の製造、排出並びに使用に関する規制等について、条約や法 律として以下の如く制定されている。


      表21.4 京都議定書の概要
      経緯 1997年12月に採択(気候変動枠組条約に伴う第3回 締約国会議(京都)の際に採択)
      日本は2002年6月に締結
      対象ガス CO2,CH4,N2O,HFC,PFC,SF6
      基準年 1990年(HFC,PFC,SF6 は1995年)
      約束期間 2008年~2012年
      数値約束 先進国全体で少なくとも5%の削減
      日本:-6%,アメリカ:-7%、EU:-8%
      1985年 オゾン層の保護の為のウィーン条約 (締結国数)172カ国とEC(欧州共同体) (概要)①オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康及 び環境を保護する為に適切な措置をとること。 ②研究及び組織的観測などに協力すること。
      1987年 オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書 (締約国数)171カ国とEC (概要)①オゾン層破壊物質の規制スケジュール ②非締約国との貿易規制
      1988年 特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律


    21.1.3 大気環境

    現状の問題として、以下の項目が上げられる。
    1. 酸性雨

      酸性雨により、湖沼や河川の酸性化による魚類等への影響 , 土壌の酸性化に よる森林への影響、建造物や文化財への影響等が懸念されている。

      酸性雨は、原因物質(硫黄酸化物、窒素酸化物等)の発生源から数千kmも離 れた地域にも影響を及ぼす性質があり、国境を超えた広域的な現象である。

    2. 光化学オキシダント

      工場・事業場や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物 (VOC)を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて化学反応に より二次的に生成されるオゾン等の総称で、いわゆる光化学スモッグの原因と なっている物質である。

    3. 窒素酸化物

      一酸化窒素(NO),二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物(NOx)は,主に 物の燃焼に伴って発生し、その主な発生源には工場等の固定発生源と自動車等 の移動発生源がある。

      NOxは光化学オキシダント,浮遊粒子状物質、酸性雨の原因物質となり、 特にNO2は高濃度で呼吸器を刺激し、好ましくない影響を及ぼすおそれがある。

    4. 粒子状物質

      大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに 「浮遊紛じん」は環境基準の設定されている「浮遊粒子状物質」と「それ以外」に区 別される。

      「浮遊粒子状物質」は微小な為大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して 高濃度となり呼吸器に悪影響を及ぼすことになる。

      「浮遊粒子状物質」には、発生源から大気に放出される一次粒子と、硫黄酸化 物(SOx),窒素酸化物(NOx),揮発性有機化合物(VOC)等のガス状 物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子がある。

    5. 硫黄酸化物

      硫黄を含んだ重油、石炭などの燃焼施設から発生したり、銅、鉛、亜鉛など の硫化鉱のばい焼により発生する。

      硫黄酸化物はぜんそく等の病気や酸性雨の原因のひとつと考えられている。

    21.1.4 水環境

    水質汚濁は、工場や事業場から排出される産業系排水や我々の日常生活から排出さ れる生活系排水など、人間の生産活動や生活に伴って発生する排水が、水域の自然浄化 能力の限界を超えて排出されて引き起こされる公害である。

    従来、水質汚濁の原因は産業系排水による汚染が大部分を占め、その規制強化 が重要な課題であったが、水質汚濁防止法(1970年制定)により厳しい排水規制 がとられた為、近年の水質汚濁の主原因は我々の一般家庭等から排出される生活排水 へと移行しつつあり、その対策(主として下水道)が重要な課題となっている。

    又最近では、地下水や閉鎖性水域(人口や産業が集中する内湾、内海、湖沼 等の閉鎖性水域)や海洋での汚染が問題となってきている。

    21.1.5 事業系ごみ

    1. 廃棄物の定義及び分類
      1. ①廃棄物の定義 占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却することができない為に不要になった 物。
      2. ②廃棄物の分類

      (注1)特別管理廃棄物 PCBを使用した物品、ばいじん、燃えがら、汚泥、感染性廃棄物、廃石綿等 で、その発生過程で一般廃棄物と産業廃棄物に分かれる。

    2. 問題の概要
      1. ①廃棄物発生量の増大

        2003年度の廃棄物総排出量 は約4億6400万トンで、そのうち一般廃 棄物は約5200万トン(国民一人一日当たり1106g),産業廃棄物は約4 億1200万トンとなっている。 廃棄物発生量はここ数年横ばい状態となっているが、最終処分場の枯渇や資源 の有効利用という点からも、廃棄物の発生抑制が緊急の課題である。

      2. ②不法投棄の増大

        不要な物である廃棄物の処理には、十分な費用をかけるという動機付けが働か ないことが不法投棄の原因となっており、2004年度には不法投棄量41.1 万トン、不法投棄件数673件となっている。

        こうした不法投棄の未然防止の為の規制の厳格化とリサイクル促進の為の制度 の合理化を内容とする廃棄物処理法の改正が行われ、2003年12月から施行 されている。

      3. ③ 有害廃棄物の越境移動問題

        1970年代から1980年代にかけて、先進諸国から輸出された有害廃棄物 が開発途上国において不適切に処分されたり不法に投棄されることによって環境 汚染が生じた。

        この背景には、より規制が緩く処理費用もかからない開発途上国等へ有害廃棄 物が輸出されがちなことがあった。

        こうした問題に対処する為、1989年にUNEPを中心に「有害廃棄物の国境 を超える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が採択され、1992年 に発効された。

    3. 今後の対応

      現代の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動から生ずる大気、水、 土壌等への環境負荷は、自然の自浄能力を超えて増大している。

      自然の物質循環を阻害することのないよう、我々の社会経済システムにおい ても、物質循環の輪を形成していくことが求められている。

      こうしたことから、「循環型社会形成推進基本法」が2000年に制定され、 この年を循環型社会元年として位置付けられた。

    21.2 環境問題と企業活動

    21.2.1 企業活動による公害問題

    1. 日本で初めての公害問題

      1880年頃、栃木県の足尾銅山(古河鉱業)からの廃液が原因で渡良瀬川が 汚染され、地元農民が健康被害を受けた。

    2. 四大公害病(1960年頃)
      1. ①水俣病

        熊本県水俣市において、水俣湾の魚や貝を食べていた漁民や周辺の人 に、手足や口のしびれる症状や死亡者が発生した。

        原因は、チッソ水俣工場の廃液に含まれるメチル水銀が魚や貝に蓄積し、 それを長い間食べていた人が発病した。

      2. ②新潟水俣病(第二水俣病)

        新潟県阿賀野川流域において、熊本県水俣市の場合と同じ水銀によ る公害病が発生した。

        原因は昭和電工鹿瀬工場からの工場廃水中のメチル水銀であった。

      3. ③イタイイタイ病

        富山県神通川流域で第二次世界大戦の頃から発生。子供を出産した女 性に多く発症し、手足の骨がもろくなり、激しい痛みが伴うので、イタイ イタイ病と名付けられた。

        鉱山廃液に含まれるカドミウムが原因であった。

      4. ④四日市ぜんそく

        三重県四日市市を中心とした地域で、多くの人が気管支炎やぜんそく、肝 障害を起こし、死者も出した。

        原因は、石油化学工場から出る排煙中に含まれるばいじんや亜硫酸ガス 等によるものであった。

    21.2.2 環境問題(以前は公害問題)に関する各種法律

    1. 公害対策基本法

      日本の四大公害病を受けて公害を規制する法律として、1967年に制定され た。

      公害の範囲として、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、悪臭、騒音、振動及び地 盤沈下(これらを典型7公害と言う)をあげ、事業者や国・地方公共団体、住 民が果たすべき義務を明らかにし、公害を防ぐ為のいろいろな法律が制定さ れた。

      本法律は、1993年の「環境基本法」の成立により廃止された。

    2. 各種公害を規制する法律
      1968年「大気汚染防止法」、「騒音規制法」 制定
      1970年「廃棄物処理法」、「水質汚濁防止法」 制定
      1971年「悪臭防止法」 制定
      1976年「振動規正法」 制定
      1993年「環境基本法」 制定、「バーゼル条約」 加盟
      1999年「ダイオキシン類対策特別措置法」 制定
      2002年「土壌汚染対策法」 制定
    3. 循環型社会を作る為の法律
      1. ①循環型社会形成推進基本法(2000年制定)

        大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会を21世紀にふさわ しい循環型社会に変えていくための、基本原則と基本施策の総合的な枠組みを 定めた法律で、下記の5つの対策の優先順位を明記。

        1. 廃棄物の発生をなるべく抑える(リデュース)
        2. 使用済み製品を再使用する(リユース)
        3. 使用済み製品を原材料として利用する(リサイクル)
        4. 廃棄物を焼却して熱や電気を利用する
        5. 廃棄物の適正処分
      2. ②個別物品の特性に応じた規制
        2000年容器包装リサイクル法 施行
        2001年家電リサイクル法 施行
        食品リサイクル法 施行
        2002年建設リサイクル法 施行
        2005年自動車リサイクル法 施行
    4. エネルギー政策に関する法律

      現在、省エネルギー・二酸化炭素排出削減の為の種々の対策が推進されい るがエネルギー供給面の対策として、電気事業者に販売電力量に応じて一定割合の新エネルギー等を利用して得られる電気の利用を義務付る 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」 が、2003年に完全施行された。(表21.5 参照 )

      RPS法によると、新エネルギー等による発電義務量は、2010年度 (平成22年度)で122億kwh/年(新エネルギー割合:1.35%)と成っている。

      表21.5 RPS制度の概要一覧表
      項 目 主 な 内 容
      RPS制度とは Renewable Energy Portfolio Standard ないし Renewables Portfolio Standard の略称。電力小売業者に新エネルギーから発電した電気 (新エネ電気)の一定割合以上の引取りを義務付け,新エネ電気の導入促進 を図る。新エネ電気は証書によって取引きされ,自社の供給地域で新エネ電 気が不足する電力小売業者は,証書を購入することによって義務を達成する ことができる。
      根拠法 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS 法)2002 年 5 月に国会成立,6 月公布,12 月に新エネ等電気の設備認定部 分の規定を施行,2003 年 4 月に引取義務部分の規定を施行し,法律が完全 施行された。
      利用目標 経済産業大臣は,総合資源エネルギー調査会,環境大臣,その他関係大臣 の意見を聞いて新エネルギー電気の利用目標を定める。経済産業大臣は,利 用目標を考慮し,電気事業者に対し,毎年度,その販売電力量に応じて一定 割合以上の新エネ電気の利用を義務づける。
      <利用目標>
      単位:億 kWh/年
      15年度 16年度 17年度 18年度 19年度 20年度 21年度 22年度
      73.2 76.5 80.0 83.4 86.7 92.7 103.3 122.0
      引取義務の対象者 一般電気事業者(電力会社),特定規模電気事業者(電力小売の新規参入 者),特定電気事業者(再開発地区など地域を限って小売事業を展開する事 業者)の 3 事業者。
      義務の履行方法 電気事業者は,義務を履行するにあたって①自ら発電する,②他社から新 エネ電気を購入する,③他の電気事業者に義務を肩代わりせることができる これにより電気事業者は,経済性やその他の事情を考慮して,最も有利な方 法を選択することが可能になる。
      新エネ電気とは RPS 法は,新エネルギーとして,風力,太陽光,地熱,水力,バイオマス その他政令で定めるものと規定して,これらのエネルギーから発電した電気 を新エネルギー電気としている。
      新エネ電気の種類 風力発電,太陽光発電,地熱発電,水力発電,バイオマス発電の5発電が 新エネ電気になるが,今後,公布される政令等によって水力発電は,ダムな しで,1,000 k W 以下のものとする,地熱発電は,地下の高温蒸気を減少さ せる度合いの少ない再生可能性が高いものを対象とする等の制限が加えられ る。
      設備認定 新エネ電気を発電する者は,発電設備が基準に適合していることについて 経済産業大臣の認定を受けることができる。経済産業大臣は,バイオマスを 利用する発電設備については,予め関係大臣と協議する。設備認定の要件と して,系統へ連係している新エネ電気の量が計算できる設備が必要となる。
      バイオマスの規定は RPS 法は,バイオマスについて,動植物に由来する有機物であってエネル ギー源として利用できるもので,原油,石油ガス,天然ガス,石炭と,それ らの製品を除くと規定している。この結果,バイオマスは,農業廃棄物,畜 産廃棄物,林業廃棄物,食品廃棄物,建築廃材,下水汚泥等からなり,製紙 業界の黒液も対象となる。
      混焼の場合は 熱量ベースの混焼比率に応じて新エネ電気の量をカウントする。混焼比率 の調査方法,計算方法,チェックの頻度等は今後,明らかになる見通し。
      廃プラ発電の適用は 廃棄物発電のうち廃プラスチックなど原油等から製造される製品を熱源と するエネルギーについては現在まで結論を得ておらず,今回の政令では,廃 プラ発電は新エネ電気の対象から除外し,検討を継続することとなった。

      21.2.3 環境ビジネスの将来予想

      (表21.6 参照)

      わが国環境ビジネスの市場規模及び雇用規模の将来予測 (環境省作成) に関 して、2000年と2020年を比較すると以下の様な予想が発表されている。

      1. 環境ビジネス全体
        1. ①市場規模

          約29.9兆円→約58.4兆円 (約2倍)

        2. ②雇用規模

          約77万人→約123.6万人(約1.6倍)

      2. 今後大幅に増大する分野
        1. ① 大気汚染防止用装置

          約5,800億→約5.2兆円 (約9倍)

        2. ② 教育、訓練、情報提供

          約220億→約2,300億円(約10倍)

        3. 再生可能エネルギー施設(バイオマス等)及び省エネルギ・エネルギ管理

          約8,900億→約8.8兆円(約10倍)

    表21.6 環境ビジネスの市場規模および雇用規模の現状と将来予想についての推計

    環境問題対策における企業活動の実例(JFEの例)


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