第19章/外資系企業の戦略
グローバル化により、日本で企業活動する外資系企業も増えている。日本における
外資系企業の組織構造や経営戦略について紹介する。
19.1 外資系企業とは
平たく言えば、日本での創業以外の海外創業企業を言う。尤も近年では、M&A等
による日本企業の外資化も進んでいる。外資導入による日本への進出に当たっては、
・日本企業との合弁
・日本企業の買収
・支店や代理店の開設
・日本法人の設立
・OEM供給(相手先メーカー(ブランド)での供給)
等、様々な形態がある。
近年、ホールディング形態の企業が増えている
一方、日本企業の海外への進出は、相手国にとっては外資であり、その国の法律や
商習慣に縛られることになる。
中国は共産党が支配する国家なので、市場経済に移行しつつあるも、中国企業に
有利になるよう、簡単に法律を変えたり、外資に対して規制をかけたりしてコントロー
ルすることができる。
★自由な経済活動のためには、共通のルールが必要な所以である。WTO(世界貿
易機構)はそのためにある。
19.2 外資の効用
日本への進出障害がなくなって、市場としてのうまみがあれば外資は入ってくる。
・異文化導入の自由な競争により経済活動が活発化する。
・さらなる規制緩和、規制撤廃が進む。
・市場がグローバル化する。
・消費者は多様な製品やサービスの恩恵を享受できる。
・企業経営の効率化が進む。 等々
このように、日本にないサービスの導入(規制緩和や規制撤廃を促す効果)により、
市場が拡大する。
・特に金融サービス、生命保険・企業対応保険サービス、物流サービス、情報・通信サービス、ソ
リューションサービス、仲介・代行サービス、クレジットサービス、コンサルタントサービス 等々。
・これらは業界の垣根を越えて異業種の自由な参入を促すことに繋がる。
★今や証券会社で生命保険も扱えるし、銀行も株式を扱える。製造業が損害保険や銀行
にも参入できる。消費者の選択肢が大きく広がったメリットは大きい。
19.3 外資導入のリスク
大きな資本力を有する外資が日本市場に参入することによって、買収の機会が増え、
寡占化の進む業種も出てくる可能性もある。
・様々な買収防衛施策が取られている所以である。
・地方への外資の進出は地元地域経済活性化に繋がるが、儲からないと見るや、いとも
簡単に撤退する(企業論理)ので、永続的な保証はない。
外資に限らず利潤を追求する企業としては当然の行動と言える。外資の誘致は一時
的な地元雇用安定には繋がる。
19.4 邦銀と異なる外資系金融(投資銀行)の一例
インベストメントバンクの日本語訳で、法人向けに株式や債券の引き受けを手がけ
たり、M&A(企業の合併・買収)仲介や財務・資本政策等に関する助言を行ったりす
る金融機関を言う。
・欧米では企業の資金調達や資本構成、事業や組織戦略に深く関与している。
・日本でも楽天がTBSに経営統合を提案したときに、米系のゴールドマンサック
ス証券と「助言契約」を結んでいる。
★投資銀行の力が案件の成否を左右する場合も多い。
19.5 外資系企業の一般的スタンスの一例
19.5.1 米系外資
・コスト/パフォーマンスの徹底追及。
・比較的短期的な成果、リターンを求める傾向が強い。
・ドラスチックな改革を厭わない
・成果主義の徹底。
・より高い収入を求めてのJob-hoppingを厭わない。これを容認するスタンス。
・OFF-JTによる自分自身のスキルアップは自由(自分自身にかなりの投資をする)。
19.5.2 欧州系外資
米糸との大きな相違点は
・比較的労働組合の意見も取り入れた経営スタイルも少なくない(特にドイツやオ
ランダ企業)
・終身雇用的形態も多い(特にフランス)。
・一族が所有する持ち株会社の形態も多い。
・米系資本主義経済とは一線を画した、セイフティネットの依存型の企業経営スタ
ンス
★ドイツのダイムラーと米系企業のクライスラーが合併して、ダイムラークライス
ラーが合併して久しいが、欧米系の中での様々な確執もある。
19.6 外資系日本企業の経営スタンスの一例
本社からの利益目標にどのように応えるかが最大のポイントと言える。
- 世界の各地区から一同に会して世界経済の動向や様々な情報共有を行う。
- 本社の世界戦略に則り、各地区の経営戦略、利益計画を積み上げる。
- 戦略上重要な地区に対しては特別な施策が取られる。
- 4半期ごとに報告会と利益確保策が議論される。(ここでトップの首が飛ぶことは
日常茶飯事)
なお、外資系企業が日本で失敗する理由として、以下のような要因がある。これま
で幾つかの欧米系企業が日本市場に進出しているが、思うような経営ができずに撤退し
た例は少なくない。時期尚早だったとして、再度進出する例もある。
フィンランドの家具メーカーやフランスのスーパー、米国の玩具メーカー、米国の食
料メジャー等々。
これらは時代背景、時代の流れによる消費者の価値観の変化、消費嗜好の変化等に
大きく左右される。マーケティングと時代を読み取る企業の洞察力、世界戦略が重要
な鍵であることが分かる。
★地道に日本に腰を落ち着けて長期的戦略で対応している企業もある。!
19.7 ある外資系日本企業(製造業)の経営の実例
- 本社の組織体系
Matrix Management の組織
- ① Vertical =Business Units
縦軸= 事業本部 (Innovation & Global Marketing)
- ② Horizontal = Territory
横軸= 地域本部 (Field sales & services)
MacDermid は、地域本部がイニシアティブをとっている。
- ③ 対顧客戦略
Account management を優先
(一般的には、本社主導による “ territory management” )
図19.1 対顧客戦略
- 外資系企業の日本の組織体系
- 基本 : Flat 型機能重視の組織
- 目的 : Low Cost Operation & Quick response
社長 と Functional Team (FT)& Project Team (PT)
- 職位 : 社長、チームリーダー(TL)&チームスタッフ
ただし、チームリーダー(主任から部長クラスまで)
顧客
担当者
FT
FT
&
取引先
↑
FT
PT
↑
社長
- 本社の経営戦略
● M&A戦略
- ① Merger : 合併
- ② Acquisition : 買収
- 金銭による買収
- TOB ( Take Over Bid :株式公開買付け )
- 株式交換
- 事業交換
- Strategic Alliance : 戦略的提携
● Bookend Strategy
(Innovation & Service )
米国本社の Operation 戦略
Bookend Startegy
• Innovation & Service are key, the “Bookends” of our business
• A Technology company
• Specialize in customer specific, applications know-how
● Brand Identity Strategy
(Global Corporate Image)
(YWC campaign)
米国本社の Operation 戦略
Brand Identity
- – One MRD look and feel
- – Same for all divisions
- – Ensure consistent
- 日本独自の戦略 (基本理念)
People | Strengthening of human assets (人財強化) |
Strategy | Bookend & Japanese original strategy (混合戦略) |
Operation | Bridge of long-term plan and short-term plan (混合戦略) |
| (日本型) (米国型) |
- ① Focus on“Change” 戦略 (基本戦略)
- Industry (業界動向)
- Environment (環境規制)
- Technology (技術革新)
- Cost & Price (コスト)
- Legislation (規制)
- Consumer mind ( 消費者意識)
- ② Customer First 戦略(基本戦略)
日本独自の戦略に取り入れる
- ③ Brand Number 1 戦略
De Fact Standard 戦略
(マーケットシェアー 80%以上獲得)
- 業界トップメーカーとの共同開発
- 選択と集中 戦略
- 業界二番手以下の会社への戦略的対応
結果: 業界標準に採用
- ④ Service add on Pricing 戦略
- 顧客ニーズにあった Out Sourcing の提供
- 全ての顧客への業務のコスト化
- 迅速な対応
- 社内技術者の活用
結果: 業界内で最高の販売価格の維持
高利益率経営に寄与
- ⑤ Operational management
- ◎ Flat organization (フラット型組織)
- consisting of functional teams and project teams
(機能別チームとプロジェクトチームの活用)
- Direct report to top management (トップへの直接報告)
- Quick decision by top management (トップによる迅速決定)
- Quick response to the customers (顧客への迅速な対応)
- ◎ Basic management strategy ( 基本戦略)
- - Motivation management (動機付け管理)
- - Objectives management (目標管理)
- - Information control management (情報管理)
- - Time management (時間管理)
- - Reporting & reviewing management (結果報告管理)
- ◎ Bookend strategy
Innovation (革新)
- Product development (technical innovation) (R&D)
- IT infrastructure
Services (サービス)
- Customer services
- Outsourcing services
以上を纏めると以下のようになる。
米国本社の戦略
- Bookend Strategy
- Brand Strategy プラス
日本独自の戦略
- Focus on Change 戦略
- Customer First 戦略
- Brand Number 1 戦略
- Service Add on Pricing 戦略
- Profit Model Portfolio戦略
- Specialty Products Profit Model
- De Facto Standard Profit Model
- Brand Profit Model
- Product Pyramid Profit Model
このように外資も日本独自の考えを導入して、混合型の経営戦略を取っていること
が成功の要因と言える。
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