大企業の相次ぐ不祥事は、我が国の企業社会の根幹を揺るがすものであり、欧米先 進国並みの「企業統治」がますます重要になってきている。不祥事の要因はさまざまで あるが、経営者の私利私欲や、役員や社員の遵法意識の欠如、予算達成第一主義、組織 内情報共有の欠如等が挙げられる。
日本語で「会社統治」と訳されており、その語義から明らかなように、会社経営(コ ーポレートマネジメント)とは意味合いが全く異なるものである。 本来、企業が社会や個人のために、どのような活動の方向にあるべきかを示す考え方 とも言える。企業の運営や活動は、株主はじめ、顧客、従業員、取引先、金融機関等、 多くの利害関係者(ステークホルダー)によって成立している。そのため、経営者の勝 手な独走や暴走を許さないようにすることが必須である。そのために、相互の利害関係 を円滑に調整しながら経営を方向付けていく必要がある。コーポレートガバナンスはこ うした考えにより出てきたものである。
したがって法令遵守(コンプライアンス)や企業倫理の遵守が、目に見える形でチ ェックされる必要があり、そのための健全かつ効率的企業活動を可能にする、さまざま なシステムの構築がなされている。すなわち、
これらをもう少し具体的に掘り下げると、
対象事項(要素)としては以下の項目が重要である。 (1) 経営の遵法性、健全性、透明性の確保。 (2) ステークホルダーに対する説明責任(アカウンタビリティ)の重視。 (3) 迅速かつ適切な情報開示。 (4) 経営者、会社内各層の経営管理者の責任の明確化。 等であり、これらを実現するために、委員会設置会社の選択や、社外取締役、社外監査 役の増員、監査役のスタッフ部門の拡充・強化、法務部門の拡充・強化、情報開示体制 の確立、企業倫理憲章や社員の行動規範の設定および継続的教育等々が構築され、実行 されることが重要である。
コーポレートガバナンス情報の開示として、 2003年 3 月の証券取引法の改正によ り、 2004年 3 月期の有価証券報告書から下記の記載が求められることになった。
①会社の機関の内容 ②内部統制システムの整備の状況 ③リスク管理体制の整備の状況 ④役員報酬の内容(社内取締役と社外取締役に区分した内容) ⑤監査報酬の内容(監査契約に基づく監査証明に係る報酬とそれ以外の報酬に区別した内容)
(会社法施行規則 98 条、100 条)(委員会設置会社では若干内容が異なる。) こ の他、会社の機関構成によって若干異なる。
監査役設置会社以外では、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含 むものとする。
監査役設置会社では、
監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人 に関する事項
指名委員会 、 監査委員会 及び 報酬委員会 を置く 株式会社 をいう( 会社法2条 12号)。委員会設置会社は、従来の株式会社とは異なる企業の統治制度( コーポレートガバナンス )を有する。 取締役会 の中に社外取締役が過半数を占める委員会を設置し、 取締役会が経営を監督する一方、 業務執行については執行役にゆだね、経営の合理化と適 正化を目指した。企業の経営を監督し、意思決定を行う「取締役会」と、実際の業務の 執行を行う「執行役」の二つの役割を明確に分離したのは、アメリカで採用されている 組織構造のうち最大公約数的な部分を参考にしたものである。なお、ソニーなどが導入 していた 執行役員制度 (現在は業務執行役員)は会社法等の商法典に規定された制度で はなく、実際の構造も委員会設置会社とは異なる。
コンプライアンス (Compliance) とは、(要求・命令などに)従うこと、応 じることを意味する英語。近年、 法令 違反による信頼の失墜が事業存続に大きな影響 を与えた事例が続発したため、特に企業活動における法令違反を防ぐという観点からよ く使われるようになった。こういった経緯からか、 日本語では「法令遵守」と訳され る。
コンプライアンス(法令遵守)は、 コーポレートガバナンスの基本原理の一つ。 法律や規則といった法令を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理を守ることまでも含 まれる。企業におけるコンプライアンスについては、ビジネスコンプライアンスという 場合もある。今日では CSR( 企業の社会的責任)と共に非常に重視されている。
株式会社 においては、 商法 ( 会社法 )上 取締役 ないし 執行役 の義務(法定責任)と して規定されている。理論的には 善管注意義務 (会社法 330 条)ないし 忠実義務 (会社法 355 条)の発現とされる。 監査役 等も同様の義務を負っている(会社法 330 条)。企業も社会の構成員の一人として商法(会社法)だけでなく 民法 や 刑法 といった 各種一般法、その他各種業法をすべて遵守し、従業員一同にもそれを徹底させなければ ならないとされる。
会社法においては、法令遵守することの義務だけでなく、新たに前もって「法令に 適合することを確保するための体制」などの 業務の適正を確保するための体制 ( 内部統制システム )を決定することが求められることになった(会社法348条3項4号、 362条4項6号)。特に 大会社 については、内部統制システム構築義務が課されている(会社法348条4項、362条5項)。
このコンプライアンスに違反する事をコンプライアンス違反と呼び、コンプラ イアンス違反をした企業は、損害賠償訴訟(取締役の責任については株主代表訴 訟)などによる法的責任や、信用失墜により売上低下等の社会的責任を負わなけれ ばならない。
企業の犯す企業犯罪の 1 つでもあり、発覚した場合は不祥事として報道される事が多 い。またその不祥事の原因となる比率も高い要素でもある。
一部でモラルと混同される向きがあるが、コンプライアンスはあくまで「法令遵 守」であるため、モラルとは別物である。
たとえ法令そのものがモラルに反していたとしても、法令を遵守していればコンプライ アンスは成立し、また法令に定められていないモラル違反(いわゆる「法の抜け穴」を 突くような行為など)を行っていたとしても、法令を遵守してさえいればコンプライア ンスは成立する。
しかし、例えコンプライアンス違反に問われなくとも、モラルに反する行動をした 事により、社会からの信用を失い、結果的に自滅する企業も少なくない。
服薬コンプライアンスとは「遵守」の意味であり、法令遵守から派生した言葉で、 医療業界では、医薬品の 服用を規則正しく守ることを「コンプライアンスが良好であ る」といい、医薬品の服用を規則正しく守らないことを「ノンコンプライアンス」とい う。ノンコン プライアンスの一番の原因は飲み忘れであり、特に外来の小児で多い。 逆に入院患者ではその傾向が減少する。医薬品のコンプライアンスの確認には、 TDM (Therapeutic Drug Monitoring) を利用して、医薬品の血中濃度を調べる方法がある。 また、コンプライアンスを良好に保つためには、薬剤師や看護師などの指導が重要であ る。