株主やステークホルダーに報いるため、株式会社はさまざまな面から自身の企業価値 を高め、株式市場からも高く評価されるための努力が必要である。株価を高めることが 企業価値を高めるのではなく、企業価値を高めた結果、市場が評価して株価が上昇する のであって、決してこの認識を取り違えてはならない。
企業価値とは、その企業が有する有形・無形の財産、収益力、効率性、安定性、成長性等、株主やステークホルダー*の利益に資する企業の総合的絶対評価の程度を表すものと言える。平たく言えば、企業が生み出すであろう、将来の収益の合計のことであり、株主に帰属する株主価値と、ステークホルダーなどに帰属する価値に位置付けられる。ただ、企業価値は将来の値の予測値であり、将来のさまざまな要因(外部要因、内部要因)によって変化するので、したがって、企業価値を正確に予測することは難しい。
*)ステークホルダーとは、企業の利害関係者のことを言い、株主も含めて言う場 合もある。顧客や取引先以外に、企業活動を行う上で関わるすべての人のことを言う。 地域住民、官公庁、研究機関、金融機関、そして従業員も含む。今後、企業はステーク ホルダーとともに発展し、企業価値を高めて双方の利益実現に努力して行く必要がある。
企業評価にはさまざまな手法・アプローチがある。その中で、M&Aなどのさいに広 く採用され、また理論的裏付けも持っているのがDCF法( Discounted Cash Flow )による評価である。DCF法による企業評価の概略の流れは、以下に示すよう なものである。
なおフリーキャッシュフローとは、その企業が本来の事業活動によって生み出すキャ ッシュフローのことを言う。ここで、“フリー”とは、企業が資金の提供者(金融機関や 社債権者のような負債の提供者、および株主である資本の提供者)に対して自由(フリ ー)に分配できるキャッシュという意味である。
企業はこのフリーキャッシュフローを原資として、債権者に金利を支払ったり、債 務の償還を行い、あるいは株主に配当を支払ったり、自社株買い(株式の消却)を行っ ているのである。
友好的、敵対的な買収がある。資本市場を優先する世界は、資本を有するものが発言 権を有する(LLPやLLCは位置付けが異なっていることは既出の解説の通り)。
一例として、2006年に世間を騒がせた村上ファンドによる阪神電鉄株の取得や、 その前に起こったライブドアによる日本放送の株式取得、さらには楽天によるTBSの 株式取得に対して、取得された側が「挨拶がなかった」とか、不快感を表すのは論外な のである。経営者の怠慢を突かれているのであって、まだまだ企業価値を上げられる余 地があることを、外部から指摘されているわけである。
したがって企業価値が上がらなければ良い買収とは言えないのである。市場のグロ ーバル化が進む状況下だけでなく、国内市場においても供給過剰の状況下ではM&Aが 経済に有効に作用する場合が少なくない。仕掛けられたTOB(株式公開買付)の回避 に例え成功しても、その業界全体の“パイ”が供給過剰になって共倒れでは、必死の攻防 も意味がない。互いにWin-Winの形を構築する経営陣、株主の洞察力が求められ る。M&Aに対しては、長年株式の持ち合いや安定大株主、さらには物言わぬ小株主に 守られてきた日本の企業と、欧米の企業とのスタンスの違いも大きいが、持ち合の解消 (不良債権の払拭)やグローバル化の波にさらされて、ますます外資の攻勢も多くなっ てきているのが実情である。
M&Aでは、吸収する企業とされる企業が明確なのに対して、共同持ち株会社の設 立方式は、対外的に対等のイメージを与えることができ、合併前の移行措置として使わ れる場合もある。
・メリット・・・・ | 傘下の企業の独立性がある程度保たれるため、従業員の抵抗感が少なく、統合を段階的に進めることが可能。 |
・デメリット・・・ | 傘下の企業を思うように束ねられず、統合の効果が出せない場合もある。 |
ここで黄金株とは、通常の株式とは異なり、 1 株でも拒否権を有する特別な株式で あり、特定の株主に絶対的な権限を持たせる目的で発行される。
従来、欧州の空港民営化等で使われたものであるが、敵対的買収に対して有効な手
法とされるものの、弊害も大きいので米国では上場後の黄金株発行を禁止している。
★我が国では2004年に上場した国債石油開発の黄金株を政府が保有している。
国内で代表的なのは東京証券取引所と大阪証券取引所である。 1 部と 2 部がある。 会社が資金を得るには銀行からの融資と、市場を介した手段がある(社債や増資等)。 株式市場は株式の発行を通じて資金を得るものである。会社は企業価値を高めて株価を 上げることに力を注ぐ。
株式は誰でも自由に購入できるので、大量に株式を保有すればその会社の経営に対 して、大きな発言権を有することができる。そのため、上場企業の株式を、発行済み株 式数の5%を超えて取得した場合、証券取引法により財務局に5営業日以内に報告書を 提出しなければならない。この%の見直しも議論されている。
主な記載事項は、保有目的、保有株式の種類、保有株式数、提出時の保有比率、最 近 60 日間の取得・処分状況、担保契約など株式に関する重要な契約、取得資金の調 達方法
等である。日々の複数の取引所や、投資家の間で成立した売買状況を集めて、金額を相殺するの が清算機関である。一方、実際に有価証券や資金の振り替えを行うのが決済機関であり 、 役割が違っている。
東証や大証の上場条件は厳しいので、事業基盤がまだ確立していない振興企業に対 し、株式発行による資金調達に道を開くことを目的にした市場である。東証一部や二部 などに比べて上場の基準が低いので、振興企業にも上場しやすいが、投機の対象になり やすく、株価が大きく乱高下する場合も少なくない。
市場の概要は以下の通りである。
自社株を予め決められた株価(権利行使価格)で買える権利のことである。株価が 権利行使価格を超えると時価より安く株を買うことができ、市場で売れば利益を得るこ とができる。従業員にとっては、業績向上に努力する動機付けになるので、米国ではき わめて活発に行われており、米国主要 500 社のうち従業員向けストックオプション制 度を持つ企業は 9 割を超えている。
ただ、米国エネルギー産業の寵児であったエンロン社の株価吊り上げの粉飾決算事 件で、色々問題も多い。ストックオプション制度は日本企業でも取り入れている会社が あるが、株価が絶えず上昇基調になければゲインを得ることはできず、従業員の士気を 奮い立たせることができるかどうかは経営者の手腕によるところが大きい。
なお、付与されるストックオプション行使の設定額にも、色々問題も出てきている ことも事実である。
企業が自ら発行した株式を、市場等で買い付ける行為であり、我が国では株価操作 の懸念があることから禁止されていだが、1994年に解禁された。
株主総会での定款変更を条件に、取締役会で自社株買いの時期や取得額の設定ができ る。
かつての金融機関等との株式持ち合いの解消の受け皿として使われてきたが、株主 への利益還元や企業再編等にも機動的に活用されつつある。 自社株買いの対応としては、
利益を基準にして株価の価値を割り出す指標である。 PER は、株価を EPS ( 1 株利益)で割ったもので、株価が EPS の何倍まで買われているのかを示すものであ る。
<算定式>
PER が高いほど、利益に比べ株価が割高であることを示し、逆に、 PER が低 いほど、利益に比べ株価が割安であることを示している。
例えば、 A社(株価 100 円、 EPS5円)と B 社(株価 100 円、 EPS10 円) を比較すると、 A社は PER20 倍、 B 社は PER10 倍ということになり、相対的 に B 社が割安であることになる。
このように、 PER は株価の相対的な割高・割安を判断する指標として使われる。 東証一部上場企業の平均 PER が 20 倍程度だったとすれば、東証一部上場銘柄で PER20 倍以下の株は一般的に割安と言える。
純利益を株式総数で割った金額であらわす。
東証1部上場銘柄中から流動性や業種等の バランスを考慮して選んだ225銘柄の株価の単純平均*1。 日本経済新聞社が算出、公表している。採用銘柄は毎年見直される他、臨時に入れ替えがなされることもある。権利落ちに対する株価修正を行い、連続性を保っている。一方、単純平均ゆえに、 株価が飛びやすい品薄株が平均を支配しやすいという問題もある。単位は“円”で表示される。
1968 年 1 月 4 日終値で評価した東証 1 部上場全銘柄の時価総額を100として、その後の時価総額を指数化したもの。東京証券取引所が計算、公表している。新規 上場や上場廃止、増減資などがあ った場合には連続性維持のための修正が行われる。現金配当落ち、有償増資については修正されない。 倍率なので単位はなく、“ポイント”で表示されることもある。
株価を一株あたり純資産で割ったもの。ここで純資産は会社の解散価値として解釈され る。 1 以下の PBR は、時価総額が会社の純資産を下回っていることを意味し、事業 または会社の資産に魅力があれば買収の対象とされやすいと言える。逆に事業に魅力が 乏しい場合は、いっそ解散して差額を実現した方が株主にとっては利益となることもあ りうる。ただし指数算出に使われる純資産額は直近の決算期での確定数値が使われるた め、その後の変動は反映していないことには注意が必要である。理論上は、市場全体の PBR が 1 を超えるよう株価形成がなされるとされる。