慶応義塾大学大学院経営管理研究科の嶋口充輝教授によれば,顧客や市場の接点の部 分で,マーケティングによって設定された「売れる仕組み」を実現する活動である (1997年)としている.
すなわち,営業はマーケティング戦略の実行を担う活動領域であり,知力を持って 行動する活動なのである.
以下のような営業スタイルが典型例である.
営業は体力勝負である.訪問回数の増加が業績につながる.訪問件数のノルマ化,営 業精神論,戦争ゲーム化などにつながっていく.
御用聞き営業,貸しを作る営業,無理を飲む営業,個人的付き合いによる信頼関係の構築,個人 的奉仕などである.営業担当者は「物を売るより人を売れ」のスタンスである.
前述の営業スタイルにより,個性の強い営業マンの影響も大きく,下記のような弊害 が生じやすい.
したがって,後述するSCM(サプライチェーンマネジメント)などの取り組みが必 須となる.
さらに情報の知識化として,第 4 章でも触れたナレッジマネジメント( KM )が重 要となる.KMとは,社員一人一人がビジネス活動から得た経験やノウハウを含む知 識・情報を,企業内ネットワーク通じて共有化,活用することによって業務の創造的, 効率的推進を図り,経営に反映させようとするものである.図 9.1にKMのイメージ を示す.
マネジメントの権威で経営学者の米国の P.F.ドラッカー博士によれば,「マーケ ティングの究極の目標はセリング(販売)を不要にすることである」といっており,逆 に営業戦略はマーケティングそのものとも受け取れる.これは以下のように捕らえると 理解できる.
セリングによって今日の糧は得られても,それが明日の糧に繋がる仕組みになってい なければ,企業活動の継続は困難である.マーケティングで今日のための売り込みを不 要にしようという意図である(第 6 章参照).
F.W.ランチェスター博士は,営業戦略を以下のようにまとめている.ランチェ スターは 1800年代後半から1900年代前半にかけて,英国の航空工学の分野で大きな 業績をあげた研究者であるが,英国学士院会員で法学博士でもある. 1900年代半ばま で,航空審議会会員やダイムラー社の自動車技術顧問などにもなっている.航空戦の戦 闘理論を数学的に解析したランチェスター理論は,後に米国で兵力や補給などを考慮し たランチェスター戦略モデルとして発展した.その後,経営や販売戦略に応用され,日 本では軍用よりも販売戦略としての位置付けのほうが大きい.
強者の戦略と弱者の戦略とはまったく異なるわけで,身の程を知って行動すべきで あることを示唆している.
原材料の調達から,最終顧客への製品配送までの全工程(サプライチェーン)にお ける情報を統合・管理し,製品供給プロセス全体を効率化・最適化するシステムのこと である.
具体的には資材や製品の受発注,需要量,在庫量などに関する情報を,エクストラネッ トや相互利用電子データシステムなどを利用して,複数の部品供給会社や物流業者と共 有することで,在庫量の圧縮や納期の短縮,タイムリーな製品供給を図ることである. SCMのイメージを図 9.2に示す.
顧客のニーズに合致した商品やサービスを,タイムリーに提供することで顧客満足 度を高め,顧客基盤や収益機会を維持・拡大する経営活動の総称である. 顧客と接する機会のある全部門が持つ顧客情報を集約し,一元管理して顧客戦略を 策定し,実現を図るものである.すなわち店舗・販売部門から,営業やコールセンタ ー,サポート部門に至るまで,顧客チャネルの連携・一元化を図り,顧客情報の分析 を通じて顧客戦略の策定,顧客戦略推進体制の構築を図るシステムである.ITの普 及で顧客と接する機会が多様化しており,戦略的に顧客との関係を深めることがます ます重要になっている.
また,インターネットを介した顧客対応として,“eCRM”も利用されている.電 子メールによる販売促進策や, Web サイトを通じての製品販売,問い合わせ対応 などでコスト/パフォーマンスは良いが,顧客との強いつながりを構築するには,従 来の他の方式との組み合わせが重要である.
コンピュータと電話の機能を融合する利用技術で,電話着信による顧客情報を瞬時に 検索してオペレータのPC画面上に表示する機能や,電子メール,FAXなどのメッセ ージを合成音声変換して,電話メッセージと統合管理する機能などがある.
営業力を向上・高度化させるために,IT技術を活用してシステム化し,オートメー ション化することであり,「セールスのプロ=営業」を標榜する米国ではさまざまなS FA関連のパッケージ・ソフトやツールが販売されている.日本国内でも代理店を含め , SFAサポートパッケージ・ソフトを扱う販売会社が増えている.
何ごとにも誠実な対応・配慮が基本である.
売る品物が変われば,当然その売り方は異なる.さらにお客様へのアプローチの仕方 , サービスやメンテナンスの仕方も違ってくる.これは,組織も意識も,商売スタイルも やり方全体を同時に変えることになるのである.これを一部だけしか変えないやり方で 進めると,必ず失敗する.
たとえば,売るものが家電製品のスタンドアローンの単品からシステム家電、設備 対象になっただけで,まったく違う会社に変貌しなくてはならないのである.
昔の家電製品の売り方は,いわゆるパパ・ママ店の系列ストアーを,何店所有して いるかで勝負が決まる傾向にあった.そこに商品を流せば,少なくとも店の数だけ売れ るわけで,系列店の数の大小が売上の勝敗を決めた.
それに対抗して出てきたのが量販店である.原則的にどのメーカーの商品でも取り 扱い,しかも系列のストアーより安く,販売力も強い.
さらにネット販売方式が台頭してくると,系列のストアーを所有していることが重 荷になってくる.
これまでの勝組みが一転して窮地に陥る事態になるのは,ビジネスモデルの変更を かたくなに拒んで従来成功路線を進めるからであり、ここに変革を断行しない“ゆで蛙” の怖さがある.
一方、これとは逆に第 2 章でも述べたように,外部環境の変化で,お荷物系列店を きめ細かな顧客対応に変貌させる試みもある.2025年頃には 65 歳以上の高齢者が 25% にもなる.これは平均値であるから,大都市以外の地方は 30% を越えることが 予想されている.お年寄りが対応できない天井照明の蛍光灯の取替えや,諸々の電気製 品のフィルター交換,その他簡単な取り付け・取り外し作業など,生活の身の回りの安 全,安心を提供するには,逆に都合のよい仕組みといえよう.
生産者顧客の場合には,その道のプロの顧客のニーズを的確に読み取り,Win - Win の関係に持ち込むことが必要である.そのためには顧客の生産現場を把握し,顧 客の要求をどう満たすかの知恵出しが重要になる.それには直販営業が必要であり,営 業マンの生産現場に対する技術的な知識や、製品知識、さらには経験など高いレベルの スキルが要求されることになる.提案営業で顧客の描いているイメージを凌駕するもの が出せれば,価値を認めてくれてそれなりの対価は得られる.顧客ニーズの先取りと咀 嚼,顧客提案を超えるコスト/パフォーマンスの飽くなき追及こそが,真の営業といえ るだろう.
生産現場での徹底した顧客ニーズに基づき,製品開発の開始から入り込んでソリュ ーション提供までやる営業スタイルもある.売上高営業利益率が何と 45% の 1 部上 場会社も存在するくらいであるから,営業力の違いの影響は計り知れない.