第5章/技術戦略と商品開発

  1. 5.1 技術戦略
  2. 5.2 事業環境分析から開始する例
    1. 5.2.1 マクロな切り口
    2. 5.2.2 トレンドから市場動向を探る
    3. 5.2.3 製品化に向けた技術課題の抽出
  3. 5.3 商品開発
    1. 5.3.1 商品戦略
    2. 5.3.2 顧客ニーズ把握法の例(身近な家庭商品を対象として)
    3. 5.3.3 商品開発のステップ例
    4. 5.3.4 商品コンセプトと商品の差異(差別)化
    5. 5.3.5 敵を知る
    6. 5.3.6 ネーミングの大切さ
  4. 5.4 知識創造を生み出す環境
  5. 5.5 ヒット商品を出し続けるには
    1. 5.5.1 ある会社の例から学ぶもの
  6. 5.6 市場対応から市場創造へ

5.1 技術戦略

技術戦略は,経営戦略に則ってプロフィット(利益)を生む技術施策を立案すること である.およそ下記のように分類される.

ただし扱う技術,事業形態,業種によってその期間の捕え方はまちまちである.また,技術進歩の早い分野では括弧内のように短い.

5.2 事業環境分析から開始する例

5.2.1 マクロな切り口

まずマクロ的な事業環境のトレンドを知ることが必要である.これは世界情勢・国 際関係から科学・技術の進歩,人口動態やライフスタイルの変遷に至るまで,あらゆる 分野に及ぶ.毎年同じ調査をしてそのトレンドをみることによって,ある方向性や変化 といったものを捕らえることができる.シンクタンクやコンサルティング会社では,こ れらを専門に扱っているところが多い.一般の企業では戦略部門や企画部門,あるいは 商品開発部門などさまざまな部門で推進されている.

グローバルに事業を展開する分野に限らず,どんなにローカルな事業分野において さえも必要なことである.コンペチターは絶えずグローバルに目を光らせ,儲かると判 断すればローカルな事業分野にも進出してくるからである.

以下に具体例をあげながら説明するので,そのイメージをつかんでもらえば十分で ある.

たとえばある時代・時期における状況を,「社会現象・ライフスタル」の切り口で 捕らえてみると,次のようになる.

表5.1 「社会現象・ライフスタイル」の切り口の一例
現象 内容 影響・必要性・方向性
・超高齢化社会の到来
・共働きの増加
・女性の結婚しない症候群
・少子化
・フリーターの増加

・21 世紀 30%以上の高齢者
・あらゆる職場に女性の進出
・年金制度の危機
・就職時の人材需給アンマッチ


・高齢者ケア
・可処分所得の増加
・癒しやカウンセリング需要
・鍵っ子の増加、塾需要
・転職
・外国人労働者の増加

同じ現象でも,見方によって当然のことながら影響の捕らえ方は異なってくる.各企 業の戦略が異なる理由である.

同じ「社会現象・ライフスタイル」の切り口で,ある特定分野(ここでは情報通信端 末分野に焦点を当ててみる)を意識した影響の結果の例を示すと,以下のような項目が 抽出される.

といったように,注目点(フォーカスする分野)が違ってくる.

たとえば「人口動態」の切り口からは,同様に,

たとえば「国の政策」の切り口からは,同様に, たとえば「科学・技術」の切り口からは,同様に, 囲い込み競争の激化. さらに,たとえば「経済環境状況」からは,同様に, といった項目が抽出されることになる.

さらに「国際情勢」なども考慮して,あらゆる切り口からの影響の項目を洗い出してみることが最初の作業である.これらの切り口数は,5 切り口くらいでまとめるのが良く,多くても 10切り口未満にすべきである.あまり多いと複雑になるだけである.

5.2.2 トレンドから市場動向を探る

次に,それぞれの切り口で抽出された項目を睨みながら組み合わせ,情報通信端末 分野のトレンドを支配していると思われる項目の抽出を行う.ただしこの作業には,そ の分野の知識や経験,ノウハウ,さらにはまとめるセンスが必要である. 結果の一例として,以下のような項目が抽出できる.

  1. 地域,地方,年齢のモザイク化
  2. 音声情報から画像情報へのシフト
  3. ワイヤレスアクセスの加速
  4. 高機能情報端末の出現
  5. 規格化,省エネ,リサイクルの重視.
つまりこの例では,この5 項目があらゆる観点,切り口から見た,情報通信端末のフ ォーカス分野における大きな現象,傾向としてクローズアップされたことになるのであ る.

次の段階は,この中から将来の市場動向を見つける作業である.この作業もノウハウ やセンスが要求される.ここでは一例として,下記の将来市場動向を抽出している.

  1. ① モザイク階層ごとに対応した情報(ソフト)の提供
  2. ② 豊富なアクセサリーの充実(オプション選択の自由)
  3. ③ ソフト/デバイスの高速化
  4. ④ 省エネルギータイプの重視
  5. ⑤ リサイクルの徹底
  6. ⑥ 機能の多様化
  7. ⑦ 健康への影響の重視
  8. ⑧ 高齢者対応機器の重視.

5.2.3 製品化に向けた技術課題の抽出

次にこれら市場に要求される機能が何であるかを抽出し,それを実現する技術課題を 導き出す.要求される機能には,機器そのものに対する技術的な機能と,感性に訴える 機能の 2 種類がある.

以下に例をあげると,
  1. 技術的な機能
  2. 感性に訴える機能
といったものであり,さらにこれらから技術課題を抽出する.

例えば,

・ディスプレイ技術, ・音声処理技術,
・音声画像認識技術, ◎高速無線伝送技術,
・アンテナ技術, ・自動翻訳技術,
・文字音声変換技術, ・高密度実装技術,
◎メモリ技術(大容量不揮発性), ・バーチャルリアリティ技術,
◎インフラ共用化(CDMA規格方式), ・短距離無線伝送技術,
◎小型大容量バッテリ技術, ・小型メディカルセンサ技術,
の技術がリストアップされ,この中でも特に注目する重要項目として,達成期間と重 要度のプライオリティから,たとえばここでは◎記号のものがとりあげられる.

以上をもとに,狙うべき製品,事業想定の一例として表 5.2のようにまとめられる.

表5.2 事業想定の一例
既存情報端末マルチメディア端末
ビジネス対応パーソナル対応 ビジネス対応パーソナル対応

デスクトップPC
ワークステーション



TV
コードレス電話
PC
ゲーム機
CATV端末
大容量高速LAN端末




デジタル TV端末
光ファイバ加入者端末




電子手帳
パームトップPC
PDC/PHS
ポケベル

携帯液晶TV
ラジオ
PDC/PHS
ゲーム機
ポケベル
無線LAN端末
PHSデータ端末



⇛ マルチメディア無線端末
最終評価としては,予想市場規模から売上推移を立て,他社とのベンチマーク(競 争力ポジショニングの資源分析をすること)を行って,総合的に判断することになる. なお技術戦略立案の基本フローの例を図5.1に示しておく.

図5.1 技術戦略立案の基本フロー例

5.3 商品開発

5.3.1 商品戦略

商品戦略は,経営戦略による事業目標や技術戦略に基づいて立てられるが,実際は 技術戦略との補完関係にある.マーケティング,投資,プロフィットの戦略を勘案し, 商品戦略としての具体的基本方針が明確にされる.

5.3.2 顧客ニーズ把握法の例(身近な家庭商品を対象として)

新たなビジネスに参入する以上,熾烈な競争があり,そのためにはお客様を知らな ければならない.また敵を知らなければならない.

たとえば,
  1. お客様は正直だ.お客様はずるい:
  2. ・・試食や無料配布,アンケート結果だけでの商売は危険である.
  3. お客様は飽きっぽい.ユニクロ現象は長くは続かない:
  4. ・・お客様が裏まで知ると次の手がわかってしまい,新鮮味が薄れてしまう.
  5. お客様は浮気っぽい:
  6. ・・ただし,このような傭兵を相手にしていると商売にならない.
  7. ロイヤル顧客(他に浮気をしない顧客)を増やすには:
  8. ・・ブランド力(品質・信頼性の確実性を示す証)とコスト/パフォーマンスを
  9. 向上させる地道な努力が必要.
といったことの対応が必須となる.

他社動向を含めた顧客ニーズ対応の他,諸々の情報やヒントの入手については,た とえば次のような手段がある.

  1. (1) 顧客ニーズ対応
  2. (2) 異業種交流
  3. (3) コンペチターからのヒント
    コンペチターの動きから,事業環境や顧客ニーズの変化を読み取ったり,種々の判断材料に利用できる.
  4. (4) 営業情報
    営業第一戦部隊との情報交換は,情報が玉石混交であることもまた事実である.営 業情報には次のようにメリット,デメリットがあるので,よく咀嚼することが必要であ る.

    理想的には,以上の顧客ニーズに関する情報を加味した技術戦略を構築し,R&D (研究開発:一般に民間企業では,目的基礎研究や応用研究などの技術開発を指してい る場合が多い)に効果的につなげることが重要である.強い商品は強い技術戦略の上に 成り立っているのである.

5.3.3 商品開発のステップ例

  1. 量産物の流れ

    一般に量産物の大まかな流れは,次のようなものである.

    "商品企画⇒仕様決定⇒0 次試作・評価⇒設計審査⇒試作・評価⇒試作認定⇒量産出図⇒量産試作⇒量産試作認定⇒量産".このような手順を踏んでも,物によっては商品企画から量産まで,短いものは 6 ヶ月以内で推進される.途中の手順を合理化したパソコンなどでは,数ヶ月にまで短縮されている.

    3次元CG利用設計や,コンピュータシミュレーション利用技術などのIT技術 の駆使によって,金型を含む試作工程の削減が可能になり,さらに安く,さらに早く物 が作られるようになるのである.

    この間に初期流動品質確認,実用試験,耐久試験,サンプル出荷,官庁関係への各 種申請対応などが平行して進む。

  2. さまざまなドキュメントで確認

    商品開発の各ステップにおいて,さまざまな企画書やドキュメントを作成して検討す ることになる.その内容は,

    商品開発企画書,設計仕様書,特許企画書,パテントレビュー,再資源化対応のた めの製品アセスメント,コスト企画書,品質企画書

    などである.

    そして,毎年コストダウンを図るのが物作りの使命といえる.たとえば,トップ自 動車メーカーの新車開発期間は今や 10 ヶ月であり,毎年コストダウンを実現してい るのである.

  3. 製品コストはどのように決めるか?

また,地元開発商品(地場商品)については,「自分ならそれをいくらで買うか」, 「身近な人,地元の人に自信を持って買ってもらえるか」を明確にしておく必要がある . 起こしたビジネスが成功するには,開発商品に対して情熱を持ち,それにほれ込んでい ることが重要であろう,

地元で評価されれば,口コミや帰省時のお土産でも広まっていく.このように,価 格設定はきわめて重要な検討事項なのである.

5.3.4 商品コンセプトと商品の差異(差別)化

  1. 他社製品の分析
    差異(差別)化のためには,同業他社製品を徹底分析することが近道である,下記 の流れはその一例である. "他社製品購入⇒性能試験⇒使い勝手試験⇒分解調査⇒使用材料調査⇒コスト分析⇒ コンセプトの把握,フィロソフィの推定⇒報告書⇒他社製品比較展示会". さらに特許を徹底的に調べ,パテントマップを作成する.これをもとに,
  2. コンセプトとは
    慶應義塾大学ビジネススクール嶋口充輝教授の定義によれば,"ユニークに満たす ニーズ"のことであり,「その商品でしか満たせないニーズ」ということができる.
  3. 商品差異(差別)化の例
    同一商品でも,それぞれお客様(消費者)に訴求する視点が違っている.エアコンと 洗濯機の例で,その訴求ポイントみてみよう.

    a-1) ある時期のエアコンの一例(メーカー名は掲載していない)

    a-2) それから 1,2年後のエアコンの一例

    b-1) ある時期の洗濯機の一例

    このように,時間経過とともに各社その差異(差別)化の内容も,少しづつ変えて いっていることがわかる.技術の洗練化や新たな技術や機能を,その時代のニーズに合 った形で市場投入しているわけある.
  4. 商品コンセプト創造の7つのステップについて

    ここで、元東芝 森健一博士が開発した商品開発手法を紹介する.

    1. 第1 ステップ:マジックナンバー 7 ±2人(頭の柔軟な人の知的興奮の場を作 る)
    2. 第2 ステップ:対象市場イメージの明確化と共有化(誰が,いつ,何のために買う のか)
    3. 第3 ステップ:アイディア・ブレーンストーミング(望ましい機能を「動詞」で表 現する)
    4. 第4 ステップ:KJ法によるグルーピング(何が本質的に重要な機能かを洗い出 す)
    5. 第5 ステップ:重要度による機能の順位付け ( 最も重要な 3 機能を選び出す)
    6. 第6 ステップ:事業発展のシナリオ作り(事業発展の順に機能を並び変える)
    7. 第7 ステップ:研究開発すべき未踏技術の抽出(まず一番目の機能を実現するため に必要な技術を洗い出す)

    参加メンバーが,「目から鱗が落ちた」と感じるところまで徹底的に繰り返す. というものであり,メンバー自身や,評価者の心の琴線に触れるようなコンセプトに 仕上がったかどうかが鍵である.そのためには,延べ最低 40 ~ 40 時間は必要であ る.この域に達していなければ,そのレベルに達するまで智恵を搾り出すのである.そ うでなければ,技術者の勝手な思い込みに終わってしまい,お客様は受け入れてくれな い.

    本開発手法による森健一博士の,世界初のワープロの商品コンセプトは次のような ものであった.

    1. ①手書きより早く入力できる.
    2. ②持ち運びできる.
    3. ③通信ができる.

    和文タイプライタ時代にあって,夢のような差異(差別)化,新鮮さがあったこと は明白であろう.

  5. 感性に訴える商品化対応

    ハード構成が機能的に他社差異(差別)化しにくくなると,感性に訴える面がより 重要になってくる.心理面,生理面を含めて人間研究が重要となる.乗用車や家電製品 , AV機器,パソコン,寝具など,生活に密着した商品はますます感性面の位置付けが重 要になる.

    たとえば,人間の聴覚特性と睡眠特性を把握することによリ,商品への応用面では, 冷蔵庫のモーター音もある特定周波数の音を一定水準までさげれば,大半の人は安眠で きるといったことが明確になり,それ以上余計なコストをかけて,さらに低騒音化を図 る無駄もなくなるわけである.

このように,人間研究によって目標とすべき基準が定量化され,商品開発の際の明確 な指針が得られるのである.サービスの分野でも同様であり,人間が関わるさまざまな 分野に適用されている.

"よく眠れ,朝すっきりした気分で起床できるエアコン"といった商品開発の命題が, 肥えた目の顧客ニーズから生まれる時代である.人間のさまざまな感性特性を研究する 必要のあることが理解されよう.より洗練化された生活密着型商品の開発には,感性工 学の効果的取り込みが重要なのである.

5.3.5 敵を知る

"コンペチターは誰か"を知ることが重要である.規制緩和や撤廃などにより,異業 種からの参入もあって,意外なコンペチターが現れることに注意する必要がある.

5.3.6 ネーミングの大切さ

どんなに素晴らしい商品でも,売り出す名前が,時代背景を含めてその商品にフィ ットしていないと,お客様からそっぽを向かれることになる.

以下にネーミングの例を示す.
  1. 失敗例
  2. 成功例
    からまん棒, 静御前, 野菜忠臣蔵,
    ダニパンチ, 大清快, お釜でお櫃,
    熱さまシート, トイレその後に, 肉取り物語,
    ガスぴたん, のどぬーる, しみとりーな,
    歯ぎしりピーナッツ, あほんだらポップコーン, ナッチューノ.

その商品のイメージや機能が一目で,あるいは聞いただけでわかるようなネーミン グが成功の秘訣といえる.ここではあえて商品名をあげていないが,実際にはその商品 を見て,あるいは手にとって見るので、一々その商品の説明を聞かなくても,"名は体 を表す"で,お客様はネーミングからおおよその機能がわかるのである.

同じ商品でもネーミングによって売上が大きく左右されるので,ネーミングはきわ めて重要な位置付けといえる.

5.4 知識創造を生み出す環境

アイディアレベルから課題解決,新規創造・発明・発見といった知識創造のために は,以下のような"場"の設定が重要である.

もっとも,修羅場に置かれないと真の知識創造は進まない場合もあり,ある意味相 反の関係にある.特に物作りの世界では,「イノベーション」と「カイゼン」の相互作 用が知識創造を助長する.

世界初のワープロの開発事例では,開発技術者達はコンセプト作りのために,談話 室で議論ばかりしていたという.このような環境作りを行える忍耐,情熱があるかどう かにかかっているといえる.

かつて,大手重工メーカーで課長クラスの精鋭に対し, 1 年間出社しないで世界中 を旅して遊んでこいという研修が,さまざまな企業で話題になったことがある.ただし 1 年後には,会社を背負う新規事業の企画リポートを提出する義務がある.ノイローゼ になったり,旅行返上などもあって途中で止めたとも聞く.結果を期待される精神的プ レッシャーは相当なものがあるといえる.

このような背景から,ナレッジ・マネジメントの構築が,知識創造を生む有効手段 として広く企業に受け入れられているのである.

5.5 ヒット商品を出し続けるには

5.5.1 ある会社の例から学ぶもの

商品開発と同時に,ネーミング戦略にもたけた,あるユニークな会社の例を紹介す る.

  1. 経緯
  2. ヒット商品を生む仕組み

    a) 提案制度

    ヒット商品を生む仕組みを"熱さまシート"の例で紹介する.

    b) 各部門のターゲット

    c) ネーミング

    d) PR活動の効果と影響

    TVコマーシャルを主体にメディア攻勢をかける.その効果と影響はは,

    その結果大手が参入することになるが,これは商品価値が認められた証拠である. それでも,大人向けや冷却持続時間の 2 倍化,欧米・アジア向け輸出など,二の矢、三 の矢と次々に新商品で攻防し,他の追随を許さない.額冷却シートの国内市場は 100億円弱で,競合品 20 種を超える中で熱さまシートは,現在も市場の半分以上を抑え ているヒット商品である.

    まさに競争社会を生き抜くには,マーケティング力と素早い対応が必要なことを示 している.

    5.5.2 先のことはわからない

    いくら予測しても,正確には先のことはわからないものである.したがって,

    変化に迅速に対応できるスタンスが必要である."ゆで蛙になるな."である.熱け れば飛び出すが,温湯だと気持ちがよくて,そのままゆであがってしまうたとえをいっ ている.

    そのためには,お客様の動向,変化を絶えずリアルタイムに収集・分析して,商品 作りに活かしていくことが必要である.ITが大きな役割をになう理由である.

    5.6 市場対応から市場創造へ

    市場対応だけに追われると,最終的には価格競争に巻き込まれてしまう.これを脱 却するには新たな市場を開拓する努力が必要となる.たとえば家電製品やAV機器の分 野に見られるように,新しい原理を利用したさまざまな新製品が次々と生み出されてい るが、これらは生活スタイルを一変させる新市場の創出である.

    よく引き合いに出される 3M社の"ポストイット"が,接着不良の失敗作から生まれ た製品であることは広く知られている.

    地方の小さな寒天製造業者から発信された,さらに卑近な例もある.元来寒天は食 品としてしか製品化されていなかった.当然市場は頭打ちになる.ここで素晴らしいの は,寒天は固まってこそ製品になるが,固まらない寒天を作る技術を確立したことで, 思わぬ市場が拡がることになる.この固まらない寒天の用途開発を食品メーカーに限ら ず,化粧品メーカーや医薬品メーカーなどと協業して推進することによって,これまで の不都合な点を解決する,新しい有用な機能を持った新商品が市場に投入でき,競合寒 天メーカーである同業他社との差異(差別)化と,協業メーカーとの"Win - Win" の関係を築くことができるわけである.この例のケースは,発想の転換による差異(差 別)化技術の確立と,異業種との協業による用途開発が市場創造のキーといえる.なお , 従来の食品産業でバイオ技術を取り込んで新市場を開拓する例は,産学連携の推進機運 の高まりでますます多くなっている.納豆の糸の繊維への利用もその一例であろう.


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