第3章/初歩の会計

  1. 3.1 財務諸表について
  2. 3.2 損益分岐点(BEP)について
    1. 3.2.1 損益分岐点の求め方
    2. 3.2.2 計算例
  3. 3.3 もう少し複雑そうな問題について
    1. 3.3.1 期末報告の一例
    2. 3.3.2 選択製造の一例
  4. 3.4 キャッシュフロー(CF)の考え方
    1. 3.4.1 キャッシュフローとは
    2. 3.4.2 フリーキャッシュフロー(FCF)とは
  5. 3.5 財務に関する主な用語(野村證券証券用語集より引用)

3.1 財務諸表について

表3.1 貸借対照表の一例 平成○○年3月31日現在
資産の部
百万円
流動資産194,156
現金及び預金35,556
受取手形及び売掛金74,570
有価証券・・・
たな卸資産・・・
繰延税金資産・・・
その他・・・
貸倒引当金Δ 1.652
固定資産245,165
有形固定資産164,878
建物及び構築物70,454
機械装置及び運搬具・・・
土地・・・
建設仮勘定・・・
その他8,023
無形固定資産11,548
ソフトウェア5,121
特許権等・・・
連結調整勘定・・・
その他
投資その他の資産6,260
投資有価証券68,738
長期貸付金27,717
歳入保証金・・・
繰延税金資産・・・
その他
貸倒引当金
繰延資金Δ 1,931
開業費65
合 計439,386
負債の部
百万円
流動負債139,812
支払手形及び買掛金46,499
短期借入金46,023
1年以内に償還予定の・・・
転換社債・・・
未払金 ・・・
未払費用 ・・・
未払法人税等・・・
従業員預り金・・・
設備支払手形・・・
その他10,279
・・・
固定負債118,630
転換社債・・・
長期借入金37,602
退職給付引当金3,482
役員退職慰労引当金・・・
その他823
負 債 合 計258,442
少数株主持分8,192
資 本 の 部
資本 金32,027
資本準備金・・・
連結剰余金 ・・・
その他有価証券 評価差・・・
額金 Δ 1,533
為替換算調整勘定Δ 2,994
自己株式
資 本 合 計172,751
合 計439,386
注)記載金額は百万円未満切り捨て表示

中間期および期末の事業報告として公表されるのが,貸借対照表(B/Sと表示さ れる)と,損益計算書(P/Lと表示される)である. 2003年度からは東京証券取引 所などが,米国なみに四半期( 3 ヵ月間)ごとの経営情報の開示を義務化している.

表3.2 損益計算書の一例
自平成○○年4月1日至平成△△年3月31日
経常損益の部 営業損益の部 百万円
 売上高381,686
 売上原価250,118
 販売費及び一般管理費 121,108
営業利益10,460
営業外損益の部 営業外収益3,317
 受け取り利息及び配当金・・・
 その他・・・
営業外費用5,171
 支払利息・・・
 その他・・・
経常利益 8,606
特別損益の部
特別利益1,465
 土地等売却益・・・
 投資有価証券売却益・・・
特別損失6,750
 投資有価証券売却損・・・
 有価証券評価損・・・
 会員権評価損・・・
 事業再編費用・・・
税金等調整前当期純利益 3,322
法人税、住民税及び事業税 2,374
法人税等調整額 Δ 848
少数株主利益 770
当 期 純 利 益 1,026
注)記載金額は百万円未満切り捨て表示

B/Sの総資本と,P/Lの売上高や経常利益を使って“総資本利益率”を表すこと ができる,すなわち,

ROA:総資本利益率(経常利益/総資本) =総資本回転率(売上高/総資本) × 売上高利益率(経常利益/売上高)

となる.

会社が持っている総資本を有効活用して,どれだけの経常利益をあげたかを示したも のであり,この式からバランスシートの内容をよくするには,回転率を上げるか,売上 当たりの利益を高めることが必要なことがわかる.

もう一つの総合力分析の重要な指標としてROE:自己資本利益率(当期利益(税 引後利益)/自己資本)がある.その他に効率性分析や安全性分析などの指標もあり, さまざまな観点から企業経営の状態をチェックできる.

キャッシュフロー計算書:

P/Lで利益が出ていても,実際には現金の増加に結びつかないことがあり,いわ ゆる黒字倒産のような事態が起こり得る.そこで営業活動,投資活動,財務活動による ,
各々の現金の状況を把握したものである.参考までに表3.3に連結ベースの例を示す.

表 3.3 連結キャッシュフロー計算書の一例
自 平成○○年4月1日 至 平成△△年3月31日
I 営業活動によるキャッシュ・フロー
百万円
税金等調整前当期純利益3,322
減価償却費18,175
有価証券評価損・・
事業再編費用
会員権評価損・・・
固定資産除却損・・
貸倒引当金の減少額・・・
退職給付引当金等の減少額・・
受取利息及び受取配当金・・
支払利息・・
土地等売却益△1,037
投資有価証券売却益・・・
投資有価証券売却損・・・
売上債権の減少額
たな卸資産の増加額
仕入債務の減少額
未払金の減少額
未払費用の減少額
その他
小計
利息及び配当金の受取額
利息の支払額
法人税等の支払額
  △・・・
  △・・・
 △83
  23,609
 
 
 
  ・・
  △・・・
  △・・・
営業活動によるキャッシュ・フロー20,232
Ⅱ 投資活動によるキャッシュ・フロー
百万円
定期預金の預入による支出△20,115
定期預金の払戻による収入14,422
短期貸付金の純減少額
有形固定資産の取得による支出
有形固定資産の売却による収入
無形固定資産の取得による支出
無形固定資産の売却による収入
有価証券・投資有価証券の取得による支出
有価証券・投資有価証券の売却・償還による収入
長期貸付による支出
長期貸付金の回収による収入
その他
投資活動によるキャッシュ・フロー△23,103
 
Ⅲ 財務活動によるキャッシュ・フロー
短期借入金の純減少額△ 922
長期借入金の返済による支出△・・・
配当金の支払額△・・・
自己株式の取得による支出△・・・
少数株主からの払込による収入△・・・
その他△・・・
財務活動によるキャッシュ・フロー△10,909
Ⅳ 現金及び現金同等物に係る換算差額・・
Ⅴ 現金及び現金同等物の減少額△13,137
Ⅵ 現金及び現金同等物の期首残高40,490
Ⅶ 新規連結子会社の現金及び現金同等物の期首残高
Ⅷ 現金及び現金同等物の期末残高27,370
注)記載金額は百万円未満切り捨て表示

情報開示強化の一貫として,上場企業に対して 2000年 3 月期から連結での作成 が義務付けられている.ベンチャー企業の場合でも,事業展開やリスク回避などの関連 で,別会社を設立したり買収したりするケースもあるので,上場した場合には参考とな ろう.

なおキャッシュフローについては,この章の最後でわかりやすく説明する.

3.2 損益分岐点(BEP)について

BEPはブレイク・イーブン・ポイントの略で,最終利益がプラスマイナスゼロにな る,赤字にならない採算点(赤字にならない売上高や売上げ台数)のことである(図 3.1参照).

損益分岐点
図3.1 損益分岐点の説明

この図の中で,固定費は売上げがゼロでも発生する費用であり,賃金はその一例で ある.一方変動費は,原材料費のように売上げに応じて発生する費用である.平たくい えば,売上げゼロのとき,まるまる赤字になるものが固定費であり,総費用から固定費 を差し引いたものが変動費といえる.

3.2.1 損益分岐点の求め方

以下に 2 つの捕らえ方を紹介するが,わかりやすいほうを利用すればよい. ・会計学の書物に記載されている一般的な公式:

損益分岐点売上高  S0= 固定費F 1-変動費V/売上高S (3-1)

・協和発酵工業(株)研修の把握方式(“人事屋が書いた経理の本”より):

付加価値比率 m × 平均単価 P × 売上げ個数 Q>=固定費 F (3-2)

理解のための概念図を図3.2に示す.この図から,付加価値mPQは売上高PQから 変動費vPQを差し引いたものであり, これが固定費Fに等しい場合に収支トントン (利益Gはゼロ)であることが容易に理解されよう.

損益分岐点理解のための概念
図3.2 損益分岐点理解のための概念図(”人事屋が書いた経理の本”より引用)
(m PQ=F が利益”ゼロ”でトントンになる)

3.2.2 計算例

理解を深めるために,簡単な計算例を以下に示す.
例題 3.1:

次の例で,赤字にならないためには,売上げを現在の何倍にしなくてはならない か? (単位:百万円)

現状は,

売上高・・・ 30 , 総費用 ( =変動費+固定費 ) ・・・ 40 , 固定費・・・ 20 .

解答例 3.1 :

式(3-1)を変形して使うと,

S0 S = F SーV = 20 30ー(40ー20) = 2 倍.
図3.2を参照しながら式(3-2)を変形して使うと,
F mPQ= 20 30ー(40ー20) = 2 倍.
となる.

例題 3.2 :
次の例で,赤字にならないための売上げ個数はいくらか? (単位:千円)

売価(平均単価)・・・ 3 , 変動単価( 1 個当りの変動費)・・・ 1.5, 固定費・・・ 150 .
解答例 3.2 :

式 (3-1)を変形して使うと,

S0 P = F (1ーV/S)P = 150 (1 ー 1.5P / 3P)P = 150 0.5×3 = 100 個.
式 (3-2)を変形して使うと,vPが変動単価であるから,
Q= FmP = F PーvP= 150 3 ー 1.5 = 100 個
となる.

例題 3.3 :

地元農産物を使ったアイディア商品を,ある食品加工業者に作ってもらい,土産物 屋で売りたい.赤字にならないためには最低何個売る必要があるか?(例題 3.2と同 種の問題である)

解答例 3.3 :

式 (3-1)を変形して使うと, 1 個当りのマージンが変動単価,食品加工業者に支払 う総額が固定費に相当するから,

S0 P = F (1ーV/S)P = 1,000,000 (1ー100P/500P)P = 1,000,000 (1ー0.2)500 =2,500 個.
式 (3-2)を変形して使うと,
Q= FmP = F PーvP= = 1,000,000 500ー100= =2,500個
となる . それぞれ求める対象によって,式を変形すればよいことがわかる.

3.3 もう少し複雑そうな問題について

3.3.1 期末報告の一例

例題 3.4 :

以下のような状況にて,表 3.4の期末報告に示すように純利益が出た.本当だろう か? (単位:千円)
ただし,

である.

表 3.4 期末報告の状況
個数(個)総額(千円)平均単価(千円)
売上高40040,000100
売上原価40032,00080
売上総利益(粗利)4008,00020
販売経費および一般管理費7,000
純利益1,000
解答例 3.4 :

変動単価は材料費/今期完成品個数(= 32,000 / 800 )なので 40 千円であり, 変動費は 40 千円 ×400個= 16.000 千円となる.固定費は労務費+経費+販売経 費および一般管理費(= 16,000 + 7,000 + 7,000 )なので, 30,000 千円 となる.

式 (3-1)で損益分岐点売上高を計算すると 50,000 千円となり,あと 10,000 千円売り上げないと収支トントンにならないことがわかる.つまり固定費の回収がで きていないわけで、来期以降に先送りされて固定費分が隠れてしまっているのである. 別な見方でさらに分析してみると,図 3.2を参照して,

付加価値単価=売上単価-変動単価= 100 - 40 = 60 千円
であるから,付加価値= 60 千円 ×400個= 24,000 千円となり,
★利益=付加価値-固定費= 24,000 - 30,000 =△ 6,000 ・・・赤字である.
したがって,このまま事業を続けると倒産ということになる.

3.3.2 選択製造の一例

赤字製品を製造中止することが良い結果を生むとは限らない.それを下記の例で紹 介する.

例題 3.5 :

製品Bの利益がマイナスになっているので,この製造を中止したいがそれで解決す るか?

製品A,製品Bの利益状況は表 3.5に示すようになっている.

表 3.5 製品A,Bの利益状況
製品A製品B合計
販売価格4,0006,20010,200
材料・加工費8002,4003,200
労務費1,4001,4002,800
設備リース料1,5402,6604,200
利益260-2600

ここで,1 日の稼働時間: 8 時間,製品AおよびBの製造時間:各 4 時間(毎日 各 1 個製造),労務費:製造時間比で配分,設備リース料:材料・加工費+労務費 の合計額の比で配分.

そこで,赤字製品Bの製造を中止し,製品Aだけを製造した場合は以下のよう になる.

表 3.6 赤字製品Bの製造を中止した場合の利益
製品A製品B合計
販売価格8,00008,000
材料・加工費1,60001,600
労務費2,80002,800
設備リース料4,20004,200
利益-6000-600
ここで、 1 日の稼働時間: 8 時間,製品Aの製造時間: 8 時間,製品Bの製造時 間: 0 時間.

結果は,製品Aだけを製造するとさらに赤字が大きくなった. そこで今度は,赤字になった製品Aの製造を中止し,製品Bだけを製造した場 合を調べてみると,

表 3.7 製品Bだけを製造した場合の利益
製品A製品B合計
販売価格012,40012,400
材料・加工04,8004,800
労務費02,8002,800
設備リース料04,2004,200
利益0600600
ここで, 1 日の稼働時間: 8 時間,製品Aの製造時間: 0 時間,製品Bの製造時 間: 8 時間.

製品Bだけを製造したほうが利益が大きくなった.このように,一概に赤字製品を 単純にカットすることが利益改善につながらないことも知るべきであり,総合的に状 況判断することが重要である.

なお,利益の最大化を求めるにはOR(オペレーションズ・リサーチ)手法を駆使 することになるが,ここでは触れない.

3.4キャッシュフロー(CF)の考え方

3.4.1 キャッシュフローとは

実際の事業運営においては,利益よりもキャッシュフロー(現金の流れを表すもの で,以下CFと略す)のほうが重要である.利益はあくまで売上(収益)から原価 (かかった費用)を差し引いたものであり,現金が手元にあるとは限らない.また在 庫については何ら言及していない.一方,CFは収入(入金)から支出(出金)を差 し引いたものであり,利益とは異なる.

具体的に単純化した例で説明しよう.

たとえば現金で 1 個 1000円のメロンを 2 個仕入れ,これを 1 個 2000円で現 金販売したとする.

もう少しCFを深くみてみると, の 3 種類がある.

たとえばある量販店を経営しているとする.当期の営業CFが5000万円で,この ときの投資CFが-5500万円であったとする.現金ベースでみると 500 万円の赤 字である.ただここで,投資CFの内訳が設備の保守・修繕や一部壊れた設備の入れ 替えなど,現事業維持のための不可避な投資が 1000万円,店舗改装や新規出店の ための将来に向けての投資が4500万円であったとすれば,営業CFから不可避的な 投資CFを差し引いても 4000万円の黒字(余力)とみなせる.来期以降に、店の改 装や新規出店の効果が売上に貢献するとの投資回収の期待があるからであり,見方を 変えると,将来的な投資が期待されている限り経営者はその路線を推進することにな る.ただこの内訳は概念的なもので明確に区別されているわけではなく,外部の人間 にはわからない.外部の出資者(株主)にとっては,その会社の事業内容を分析・理 解して,投資の内容をよく把握することが重要になってくる.企業側に対して,経営 内容の公開がますます強く求められる理由である.もっとも,投資の回収年限をあら かじめ決めて投資しているのであるから,その年限内では営業CFの合計額以下でな ければ,投資は失敗したということになる.

3.4.2 フリーキャッシュフロー(FCF)とは

純現金収支ともいい,営業CFから投資CFを差し引いた金額を,財務用語でフリ ーキャッシュフロー(CFC)とよぶ.これは企業の手元に最終的に残るお金で,こ れを元手に有利子負債の返済や,将来の投資資金のための蓄積など,企業が自由に使 えるお金である.

3.5 財務に関する主な用語(野村證券証券用語集より引用)

ROE(Return on Equity):

発行済み株式数に対しての企業の自己資本(株主資本)に対する当期利益(税引後利益)の割合。米国では株主構成に機関投資家が増加し、これらの投資家が「投下した資本に対し、企業がどれだけの利潤を上げられるのか」という点を重視したことも背景となって、最も重要視される財務指標となった。

企業は、株主資本(自己資本)と他人資本(負債)を投下して事業を行い、そこから得られた収益の中から、他人資本には利子を支払い、税金を差し引いて最後に残った税引利益が株主に帰属する。したがって、自己資本利益率は、株主の持分に対する投資収益率を表すことになる。

そのため、経営者が株主に対して果たすべき責務を表した指標と見ることができる。また、それは株主に帰属する配当可能利益の源泉となるものであり、配当能力を測定する指標として使われる。自己資本収益率は株式の投資尺度としても重要である。

BPS(一株当たり純資産)が所与とすれば、自己資本利益率を高めることは EPS(一株当たり利 益)の上昇につながり、将来的な企業利益上昇の期待から株価上昇につながる(企業の将来価値を 金利等で割り引いた、企業の現在価値の上昇につながる)。

ROA(Retuon on Asset):

総資産利益率[ そうしさんりえきりつ] 、総資本利益率[ そうしほんりえきりつ] 。利益を総資 本(総資産)で除した、総合的な収益性の財務指標である。

企業に投下された総資本(総資産)が、利益獲得のためにどれほど効率的に利用されているかを 表す。分子の利益 は、営業利益、経常利益、当期利益(当期純利益)などが使われ、総資本(総資 産)営業利益率、総資本 ( 総資産)経常利益率、総資本(総資産)純利益率、と それぞれ定義され る。

したがって、総資本(総資産)利益率を高めることは、利益率の改善(費用・コストの削減)又 は回転率の上昇(売上高の増加)によって実現される。実際の会計では、総資本を総資産として把握 することが多い。

米国では、企業の収益性を判定するのに 総資産利益率(収益率)=ROA 、 ないしは 株主資本利益率=ROE がよく用いられる。


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