序章/プロローグ

  1. 0.1 商売を始めることとは
  2. 0.2 会社設立までの大まかな流れ
  3. 0.3 社設立の実際の場面
  4. 0.4 求めるものがビジネスのネタ
  5. 0.5 現代企業

0.1 商売を始めることとは

ベンチャーを起こす,会社を創るという行為は,たとえば喫茶店や花屋,菓子屋と いった個人商店のように,個人的に何か商売を始めることと外見上は何ら変わるところ はない.本質的には,私的なお金と商売上の公的なお金を明確に分離するための,各種 の対応が大きな違いであろう.そのためにお金の流れの把握や,期末の決算書が要求さ れる.これらについては,本章の各章で詳しく解説していく.

会社組織にすることで資金調達,雇用の確保,節税効果,事業拡大などに繋がって いく可能性を秘めている.そのようなメリットを得るために,官公庁へのさまざまな許 可申請や届出が必要になるというわけである.もっとも, 2003年 2 月に施行された 最低資本金規制特例措置によって,1円でも起業できることになったので,米国の場合 と同様,初期資金のない人にとっても起業しやすい環境になったことは確かであろう. ただ,起業することと会社を存続させていくこととは,まったく別問題であることを認 識すべきであろう.利益を出してビジネスを継続することは大変なことである.そのた めに経営上のさまざまなノウハウやスキルが存在する.

会社設立にはさまざまな形態がある.実際の場面を検証してみると大きくは,

  1. より安全型に担保された形態
  2. 第2創業の形態
  3. まったく新規の形態
  4. その他の形態
に分類できる.

それぞれの形態には以下のようなものがある.
  1. 社内ベンチャーや新規事業の分離,
    合弁による別会社化,
    定年退職後の人脈を活かした会社側面支援,
    M&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収)),
    MBO(Management Buyout:経営陣による企業買収)など.
    MBOには, 経営陣が手持ち資金で買収する小規模なものから, 投資家が出資して金融機関が融資する大規模なケースまである.
    社外から招いた経営者による買収のMBI(Management Buy-In)や, 従業員が買収するEBO(Employee Buy Out)などの形態もある.
  2. 中小専業会社による自前技術を活かした別事業対応,協業による第2創業化など.
  3. スピンアウト形態,大学発ベンチャー,産学官連携対応,NPO形態など.
  4. 個人,学生,主婦層などによる起業形態.

0.2 会社設立までの大まかな流れ

会社設立までの大まかな流れは以下のようなものである.
  1. 会社概要の決定
    商号,本社所在地,事業目的,資本金などを決める.
  2. 事前調査・準備
    類似商号調査,法人印,印鑑証明書などが必要になる.
  3. 定款の策定
    会社の事業領域を宣言するもので,将来展開も考慮してできるだけ広く取ることが 望ましい.
  4. 定款の承認
    どの地域の公証人役場でも受付可能なので,互いに顧客獲得のためきわめて親切に 教えてくれる.ここで適切なアドバイスを受けながら,定款の再練り上げが行われる.
  5. 金融機関の決定
    出資金を払い込むために金融機関を訪ねることになるが,ここで 1 , 2 週間の信 用調査をされる.人脈がものをいう場面もある.
  6. 総会の開催
    有限会社と株式会社の場合で異なる.有限会社の場合は社員総会を開催する.株式会 社の場合は,創立総会および取締役会を開催することになる.
  7. 登記申請
    出資金払い込みから 2 週間以内に法務局にて設立登記を行う. これらを一人で行うためのガイド本や,さまざまなパソコンソフトが販売されている.

0.3 会社設立の実際の場面

一例として,大学教官が出資も含めて支援した実際の場面を,以下に簡単に紹介する.
  1. PR

    まずさまざまなメディアを使ってPRをする.フォーラムや講演会を通じて地域経済活性化に有用であることを訴える.

  2. 出資者の公募

    興味を示しそうな企業,個人,大学関係者などを対象に会社設立の説明会を行う.これは出資者 を募るためのものであり,「設立趣意書」や「事業計画書」を配布して説明する.いずれも形式は自 由であり,A4版1枚程度でも趣旨が伝わり,計画が明確でわかりやすい形になっていれば何ら問題 はない.

    1. 設立趣意書とは・・・

      現状の課題抽出やそれらを克服する保有技術,技術的な支援背景,マーケット,労 働市場,地域経済へのインパクト,事業発展の可能性など,設立者の“情熱”を決意 として記述したものである.設立者のいわば決意表明のようなものである.最後に 会社名と設立者の名前を記す.

    2. 事業計画書とは・・・

      趣意書に則り概要を記述する. 初年度から 3 年度程度(事業内容によっては 5 年度程度)までの事業展開, 人員計画,投資計画,営業計画など,主要な計画を年度別に記述する.もちろんこ れらは実現を目指した計画数値である.

      これら計画にあわせて,初年度から 3 年度程度(計画に示した年度にあわせる)ま での予想損益計算書を記載する.これは概要がつかめる程度の簡易的なものでよく, 売上高,売上原価,売上総利益(=売上高-売上原価),費用(たとえば人件費, その他経費),差引き利益(=売上総利益-費用)で年度毎の推移がわかる。一般 には初年度の差引き利益は微々たるものか,マイナスになるケースが多い.ただし これは業種による. 2 年目, 3 年目でじょじょに軌道に乗せて行くことになるが, これも業種・事業形態によって違ってくる.なお,設備費や人件費など固定費の割 合が高い業態では,利益創出構造に乗るまでには時間がかかる場合が少なくない.

  3. 定款の策定

    定款は各章立てて構成されている.第 1 章の総則として,

    1. 商号
    2. 目的
      ここには将来を含めて、当社がどのような事業を営むかを記述する.
    3. 本店の所在地(本社)
    4. 公告の方法
    を記述する. さらに第2章以下,
    1. 株式

      発行する株式の総数,手数料,株主名簿の閉鎖,株主の住所などの届出.

    2. 株主総会

      株主総会の招集,議長,決議.

    3. 取締役、監査役および取締役会

      取締役および監査役の員数,額面株式 1 株の金額,株券,株券不所持の届出,株式譲渡の制限,名義書換,質権の登録および信託財産の表示,株券の再発行,取締役および監査役の選任,取締役および監査役の任期,役員の欠員,取締役会の招集,代表取締役,業務執行.

    4. 計算

      営業年度,利益金の処分,利益配当,中間配当.

    5. 附則

      設立にさいして発行する株式,設立にさいしての株式発行価額,最初の営 業年度,最初の取締役および監査役の任期.

    などを記述したものである.

  4. 出資者への対応

    出資者に対しては,会社発行の株式申込書と株券不所持申出書に,必要な事項を記 載してもらって提出願う.

  5. 株主総会

    定時株主総会での報告は,あらかじめ株主に送付した監査報告書,営業報告書,議決 内容,決算書について行われる.

    たとえば第 1 回目の株主総会では,事業計画書通り若干の利益が出たが,内部留保に 廻したというようなことが議決される.このように,何が何でも配当を出す必要はなく て,株主総会で議決されれば,つぎの段階への,飛躍のための準備資金とすることもで きるのである.

    もっとも第 2 回目の株主総会で配当を出し、株主に報いる努力も必要である.

0.4 市場が求めるものがビジネスのネタ

米国ならではの世情を反映したビジネスとして,殺人現場清掃業・設備完全復元化業 なるものが存在している.凄惨な現場対応だけにそのビジネスへの参入者は少なくペイ するという。またクリスマスシーズンにお金をかける社会を反映した,金持ち層のため の招待者用敷地内・家屋内の飾り付け業や,プレゼント選定・購入代行業なるものもペ イするという.金持ち層の嗜好を捕らえるノウハウがKFS(成功の鍵)のようだ.

0.5 現代企業

現代企業は、グローバル化の厳しい市場獲得競争の中で、生き残りを賭けて進化し続 けている“生き物”とも言える。どんな大企業も最初は小さなベンチャービジネスから立 ち上がっている。企業が活性化することにより経済活動が活発になり、国が発展し、国 民生活も豊かになる。発展途上国が競って企業活動を支援しているのはそのためである 。

投資の呼込みや企業誘致は税収の増加、雇用機会の増加等をもたらし、人、物、金、情 報等あらゆるものが行き交うようになる。

第1章からは現代企業のあらゆる面を平易に解説していく。


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